豊田道倫『POP LIFE』各曲解説
1. 言葉はあきた
なんかもう色々なことがどうでもいいやって思うことが最近ある。パッと死んでしまうかという感じ。精神的に自殺してる感じが欲しくて、ピッチシフターで声を変えて、薄いけどめちゃ深いリバーブを掛けた。6弦のみ一音下げている。
2. かくれんぼ
ある人に「これは希望の歌ですね」と言われた。何も考えずに作ったのでよくわからないが、そうかもしれないと最近思う。作った時に、ちょっとした覚悟が生まれた気はした。これは内田直之とスタジオ録音。ミックスは宇波拓。歌もアコギも定位は真ん中。男らしいミックスである。
3. ふたりの場所
新宿シアターpooでのライブテイク。MDでの録音でリミッター機能オンで録音されたため、小さい音では無理矢理大きく、過大な音では小さくなったりするが、それも息づかいのようでいい。スタジオで録音もしたが、作ったばかりのこのライブ・テイクを越えられなかった。こしょっとした曲。
4. 散歩道
出だしの「誰にも言えない仕事をしている私に寝る前キスをしてくれる」というフレーズがふっと生まれて、後は一気に作った。昔作った「仕事」という曲の続編のような曲。「ファミリーマート」「布団ばさみ」という言葉を歌詞に入れたのを誰かに褒められた。こういう曲は簡単なようで、何年かに一曲しか出来ない。この曲の主人公の女性が幸せなのか、不幸せなのかわからないが、これからもふとした時に口ずさむ曲だと思う。
5. 夜のこころ
これは内田録音。一気にズシッとくる濃密な質感。こういうマイナー調の曲は自分は少ない。ある程度長く生きていると、もう会えないひとも何人かいる。生きて会えないひと、死んで会えないひと。死んで会えないひとの方が、近くに思えるのはどうしてだろうか。
6. プレイボーイ・ブルー
大阪のイベント、noonでのライブをライン録音で。今年の自分って感じの曲。クラブでざわざわした中での演奏だったが、じっくりやれた。大阪はやさぐれて、若者達の格好も東京みたいで面白くなくなったが、女の子は化粧が濃くてやっぱりいい。「プレイボーイ」というのは東京には似合わない気もする。大阪や地方都市の方が、女を泣かせる優男がいるイメージではある。「たった一行だけの詩を 誰かに褒められたい」というフレーズが、今の自分には切実で、本当のような気がする。
7. 初恋のテーマ
インスト。タナダユキ監督の映画「赤い文化住宅の初子」のサントラをやらせて貰ったが、その時のデモ。途中からわざとらしい感じのシンセ・ストリングスが監督は気に入らなかったらしく、映画ではガット・ギターのみで録音した。久しぶりに聴いたらシンセも自分としてはよかった。結婚する前、妻の家でiBook一台で作った。ビクターからDVDも出たが、楽曲使用料はまだ入って来ない。
8. まぼろしくん
春一番にAZUMIさんと出演させて貰って、その時見た押尾コータローに触発されて作った。出来は全然違う。これは録音は難航。結局、宇波拓と千駄ヶ谷のカフェ、ループラインで録音。マイク6本立てて、ミックスも歌にリバーブを掛けてくれたりして、弾き語りなのに不思議な音像だが、歌詞のイメージがしやすくなったと思う。ミックスは、バランスやヌケよりも、歌詞で色々想像出来そうかというのが自分のポイントである。ちょっとした絵本や童話みたいな歌をこれからも作りたい。
9. 五反田にて
内田録音でまたズシッと。こんな悲壮な想いの曲を作って誰に共感されたりするのだろうかと思っていたが、ライブでやると意外にこの曲を好きと言ってくれる人が何人かいた。こういう歌だからこそ、発表しなくてはと思う。五反田は家から歩いて10分程。色々本屋があり、重宝してる。風俗街にはあまり足を向けない。出だしの「弁当ぶら下げて行く」というフレーズが気に入ってる。
10. ピース・ミュージック
宇波拓によるガッツある録音となった。曲を作った時には「どうなんやろ?」と思ってライブでやったが、手応えがあった。今回のアルバムはライブ以外のアコギはすべてギブソンの50年製LG-2だが、この曲ではフレッシュに鳴っている。
11. POP LIFE
アルバム・タイトル曲。録音してミックスの時に、急遽宇波拓にイントロのシンセサイザー、手打ちドラムやって貰った。パラガっぽくなりましたねと言われて恥ずかしかったが、たまにはこういうのもいいやと思う。歌詞は結構シリアスなので、音は遊んだ方がいいかもなと。手早く勘のよい音を作ってくれた宇波拓はさりげなく凄い。
12. for you
エレクトリック・ギターによる長いノイズで、元はNOZOMI ISHIGURO のファッション・ショウ用に作ったもの。ショウでは使われず、結局ギター持ってその場で演奏した。屋形船に乗って二日間のショウで楽しかった。モデルの女の子に音を褒められて、連絡先を教えたが何も連絡なかった。
13. 14番ホーム
今年に入って一番始めに作った曲。14番ホームとは、JR新宿駅の山手線の渋谷・品川方面である。月例ソロライブの後、新宿で朝までよく飲んだが最近はそんなことも殆ど無くなり、終電で帰るようになった。ソロライブやって朝まで飲むのはかなりハードであったので今は健康的ではあるが、ちょっと寂しくもある。色々な友達、色々な想いが詰まっている曲。この曲があったから、アルバムが作れた。
14. 熱海にて
渋谷O-nestでの「しあわせのイメージ」レコ発ライブでのアンコール。声が裏返ってばかりで申し訳ないが、バックの演奏は最高である。ドラム:久下惠生。ベース:上田健司。ギター:ヤマジカズヒデ(dip)。キーボード:Dr.kyOn。PA:内田直之。最後のディレイ音が果てしなく長い。こんなPAやるのは内田直之しかいないだろう。短い曲だが、好きな曲。
15. Star Fruits Surf Rider
ライブでも時々歌ってたコーネリアスのカバー。あらかじめ決められた恋人たちの池永正二にピアニカで参加してもらった。スタジオで一発録音。後からマラカスも振ってもらった。色々なミックスのパターンがあったが、一発録りの独特なムードが捨て難かったので、内田録音のラフミックスを元に使った。
総括
色々な録音、時期もバラついているが、全部で一曲のようだとも思う。そんな感触のアルバムを作ったのは、今回が初めてだった。